前回の記事に書いた通り、俺は4月1日から4月9日まで新宿でスカウトマンをしていた。
毎日18時くらいから終電まで声掛けをしていた。
4月9日の23時頃。その日もいつも通り、スカウト通りで声掛けをしていた。
新宿駅へ向かう人の群れ。
その中に、タイプではないが、金髪にマスク、ピンクのスカートを履いた20代くらいの女性を見つけたため、いつも通り声掛け。
先輩からは、「後ろに私服警官がいないかチェックをして、初めはナンパをしろ」と教わっていた。
しかし、スカウトを始めて9日目になっており、妙な慣れと、そろそろ結果を出したい、という思いがあり、以下のような声掛けをしてしまった。
「こんばんわぁ~。お姉さん、ちょっといい??夜の仕事とか探してない?キャバでもソープでも紹介できるよ!必ず稼がせるから、どうかな!?」
百果園辺りまで、ひたすら話し続けた。
女の子はほぼガンシカ。しかし小さな声で何か言っている。
「何て言ってるの??」と、女の子の声をよく聞こうとした時だった。
後ろから、強い力で羽交い絞めにされた。
「聞いてたぞ!お前今、何してたんだ!?女の子に声掛けてたよなっ!!何て言ったんだっ!!ナンパじゃないだろっ!!!なぁっ!!!!!」
こんな感じだったと思う。正直、気が動転しててよく覚えていない。
気付くと男3人がかりで羽交い絞めにされ、そのまま歩いてALTA前の通行人から死角になる場所に連れていかれた。
このあたりは配慮をしてくれたのだろうが、話し言葉はほぼヤクザ(笑)。
もちろん3人の男とは、私服警官である。
俺は全く抵抗しなかった。
「やっちまった」という気持ちと、「これからどうなっちまうんだ」という気持ちが混ざり合って、「どうとでもなれ」とさえ思えた。
そのあとは手錠をはめられ、パトカーで武蔵野警察署へ。
ちなみになぜそんな離れた警察署に連れて行かれたかというと、23区内の警察署はすでに逮捕したスカウトマンでいっぱいだかららしい。
日付が変わり、10日の0時から4時くらいまで取り調べをうけた。
最初から俺はいっさいのことを認めていたため、これでもスムーズにいったほうなのだろう。
学歴、職歴、家族構成など、俺に関するあらゆる情報を聞かれた。
スマホも証拠品のため、撤収された。
その後、DNAも採取された(口の中を綿棒のようなもので軽くひっかいた)。
問題は指紋採取で、普通の人なら30分で終わるところを、1時間半以上かかってしまった。
なぜかというと、緊張もあり、手汗が半端なく出てしまい、なかなか機械が読み込んでくれなかったのだ。
警察からの取り調べはだいたいそんなもので、その後はスマホの解析や捜査をする間、俺は留置場にいなければいけないらしい。
5時頃に地下の留置場に連れて行かれ、荷物検査の後、上下グレーのスウェットに着替えた。下着も支給された。
ちんことお尻の穴のチェックをされたのがけっこう屈辱的だった。
押収される物の確認や、サインやら一通り済ませ、いよいよ独房に入れられた。
俺が本来入る房は相部屋だが、留置場で決まっている起床時刻が6時半のため、それまでその独房で仮眠をとるなり時間をつぶして待機せよ、とのこと。
俺が知っている刑務所の、ほぼイメージ通りだった。
違ったのは、畳ではなく黄緑色のカーペットだったことくらい。
ちなみに、刑務所とは刑が確定した人が懲役のため入る場所で、留置場は刑がまだ確定していない人が入る場所だ。
例えばお酒を飲んで酔っ払って、物を壊してしまったり暴れてしまったりした人がアルコールが抜けるまで入れられ、警察の判断で事件性がないとされると、次の日に家に帰されたりするらしい。
俺の場合は路上でスカウト行為をしたため、いわゆる迷惑防止条例のため現行犯逮捕され、全てを認めたため、留置場に入れられた。
条例違反のため、「はい、帰っていいよ」とは当然ならず、警察がさらに上の組織である検察に身柄を渡すらしい。
俺は「全て認めているんだから早く結果を出して、家に帰してよ!」と思っていたが、俺が言っていることが本当に正しいか分からないし、スマホを解析した結果、もっと大きな事件に絡んでいる可能性もあるため、何日かは留置場にいる必要があるとのこと。
その時の俺は、せめて2日後には家に帰れると思っていたが、これは全くの甘い考えであったことを後に知ることになる。
起床時刻の6時半になり、留置場内の照明が一斉に点いた(何か合図の音が鳴っていたような気もする)。
予定通り、俺は独房から本来入るべき房へと移される。
中にはすでに7番(50代)と12番(20代前半)という人達がいた。
留置場内では名前で呼ばれず、番号を振られる。ちなみに俺は8番だった。
12番さんが今日で他の場所に移されるらしく、俺は7番さんと相部屋になった。
2人とも、普通にいい人だった。
言われないと、いや、言われてもとても犯罪者には見えなかった。
聞くと7番さんは1ヵ月、12番さんは2ヵ月もこの留置場で暮らしているらしい。
悪人でも、長い留置場生活で、改心したのか。
それとも、留置場では嫌でも共同生活を続けねばならないため、仕方なく優しいフリをしているのか。
いろいろ考えたが、俺には普通にいい人にしか見えなかったし、それは最後までそうだった。
急に、恐くなってしまった。
俺は今、非日常という日常にいる、というか。
俺が他の人をそう見ているということは、そう見られていることでもある、というか。
ざわざわ・・・と、まるでカイジの登場人物になったような気分になった。
7時になり、朝食の時間。
カーペットの上にござマットを引き、その上に冷めた不味い弁当とみそ汁を載せ、あぐらをかいて食べた。
特に弁当のごはんはぬかなのか古いのか分からないが、ところどころ茶色く変色していた。
房の扉は当然頑丈に施錠されているため、食事を含め、日常の物品の受け渡しは小窓から行う。
房の中には、ほぼ何もない。
トイレの時や鼻をかむときに使うティッシュが素のままあるだけ。
スウェットのズボンのゴム紐も、首つり自殺防止のため抜いてあるなど、徹底している。
7時半からは、運動。
正確には、運動という名の髭剃り・爪切り・雑談。
房の外に順番に出され、吹き抜けのような、四方がコンクリートで囲まれている場所に行く(上は隙間から微妙に空が見えるくらい)。
壁に鏡が2枚設置されているので、順番に電動シェーバーで髭を剃る。
爪切りをしたい場合は、髭剃りをする部屋の外で警官に見られながらすることができる。
髭剃りが終わったら、すぐに自分の房に戻ってもいいが、そのまま残って他の留置されている人や警官と30分くらい談笑できる。
隙間から空が少し見えるくらいだけどそれでも少し外の空気を吸えるし、1日のうちで他の留置されている人と自由に話せる時間は運動の時間だけのため、ほとんどの人は残って話している。
俺はコミュ障がちのため、運動の時間はほとんど他の人の話を聞いていた(笑)。
会話の内容は、「〇〇番さんが拘留終わって次の段階に進めそう」だとか、「明日から入ってくる人どんな人ですか?」って警官に聞いてたり、いわゆる留置場トークだった。
5日に1回だが、8時頃から風呂の時間。
夏場はさすがに4日に1回になるそうだが、それでもキツいと思う。
俺の場合、3日目あたりからフケが出て猛烈に痒くなり、朝起きて枕を見ると、1日に100本くらい抜けていた。ストレスもあったと思う。
10時半から、読書の時間(なぜか土日は9時半くらいから)。
順番に房の外に出て、カートに積まれている50冊くらいの本の中から、3冊選ぶことができる。
俺は留置場にいる間に、『民王』『夢をかなえるゾウ』『清須会議』『幸せとは』『半落ち』『超高速!参勤交代』などを読んだ。
新聞も順番にまわってくる。
面白いのが、新聞の記事、雑誌の広告、テレビ欄など全てにおいて、警察の汚職や失態に関する文章が黒塗りされていたことだ。
俺が留置場にいた時には、愛媛県の刑務所から脱獄したニュースや、若い警察官が上司を拳銃で撃ったニュースが黒塗りされていた。
たまに透かして読めることもあるし、運動のときなどに警官に「あの黒塗りなんのニュースなんですか?」と聞けば教えてくれたりする。
じゃあなんでそんなことしているの?と思ってしまうが、慣習というか、古い体質がそのまま残っているのだろう。
運動が終わった8時頃から、読書ができる時間の10時半(土日は9時半頃)までの時間がけっこう辛かった。
2時間くらい、7番さんとひたすら雑談していた。
もちろん寝てもいいし、話さないでもいいしそこは自由なのだが、日中寝てしまうと夜眠れなくなってしまうし(これもかなりキツい)、話さないのも気まずい。
初めは7番さんの留置場&刑務所トークをずっと聞いていた。
7番さんは本の窃盗で捕まってしまったらしく、今回で3回目なので、まだ判決は出ていないが懲役3年以上になるだろう、とのこと。
なぜなら、前回が3年だったからだ。
正直、ただの万引きで懲役3年とか、世の中厳しすぎないか?と聞いていて思った。
それなら俺も初犯だとしても、なかなかヤバくないか・・・と、また不安になった。
不思議に思ったのが、7番さんが刑務所での出来事を、少しウキウキと、というか、まるで青春を思い出すように語っていたことだ。
初めは興味本位で質問して、いろいろ聞いていた俺も、だんだん飽きてきたというか、話題を変えるべきだ、と思った。
それは7番さんのためでもあった。
7番さんは、話好きだ。これは話していて分かった。
俺の存在があるからこそ、刑務所トークをしていることも確かで、好きで話していたのではないのかもしれない。
7番さんにとっては、刑務所での暮らしが人生の大部分を占め始めているように感じた。
だから俺は、「捕まる前はどんな仕事をしていたのか?」だとか、「刑務所から出たら何をしたいか?」とか、好きな映画や本について話題を移した。
こんな非日常を、日常だと、当たり前だと思ってはいけないと思う。
もちろん、留置場・刑務所での生活が何年にも及んでいる7番さんと俺とでは、立場も感じ方も違うだろう。
それでも、生意気かもしれないけど、やんわりと気付かせてあげたいと思った。
「7番さん、本屋で働いてみるとかどうですか?」と提案してみた。
7番さんは、「その発想はなかったなぁ~」と言っていた。
そしてその後も「本屋かぁ~」と何回かつぶやいていた。
捕まっといてなんだが、この国の司法について少しイライラしてしまった。
「悪いことをしたら捕まえる」、これは分かる。
「法律はみんなで決めたことであって、ルール違反をしている人には罰を与える」、これも分かる。
けど、それを繰り返してしまう人を、その度にポイポイと捕まえていていいのか、と思う。
もちろん、許されることではない。
それでも、留置場や刑務所の人件費・光熱費・食費とか、年間にしたらバカにならないだろう。
そんなことにお金を使わないで、例えば7番さんが同じ過ちをしないようにサポートするとか、そういったことにお金を使えばいいと思うのだ。
俺の書いていることは、机上の空論、ワガママもいいところだろう。自分で書いてても思う。
それでも、歯痒いというか。今回逮捕されて、日本の官僚的な部分というか、そういった非効率的で嫌な部分に嫌というほど触れることができた。
それらを今はまだ、正確に描写できない俺の文章力に限界を感じるし、とにかく歯痒い。
留置場の話に戻るが、本が読める時間になった後は、12時に昼食、17時に夕食という流れだ。
朝食、夕食は弁当でその日によってメニューが違うが、昼食は食パン4枚にジャム、マーガリン、パックのジュースと決まっている。
ちなみに平日は前日に申し込みをしておくと、プラス500円で弁当を、土日はプラス100円ほどでお菓子を追加できる。
俺は逮捕時に2000円ほど所持金があったため、プラス500円でカツカレーと幕の内弁当を頼んだ。
朝食・夕食の冷たい弁当とは違い、あったかくて、量もあって普通に旨かった。
お菓子はどら焼き・ロールケーキ・カプリコの中から選べるとのことで、俺はどら焼きを頼んだ。ごく普通のどら焼きだった。
読書は20時15分頃までしていいことになっていて、途中まで読んでいなくても、元のカートに返さなくてはならない。
20時半頃から歯磨きや布団を敷いたりして寝る準備をし、21時に消灯。
家では超ロング・スリーパーの俺が、留置場では2時間ほどしかよく眠れなかった。
消灯、とはいえ、真っ暗だと警官が監視できないため、各部屋1つだけ蛍光灯を点けたままにしていた。
目をつぶっても普通に視界が白い。他の人は逆によく眠れるな、と思った。
仕方ないから、過去から今までを振り返ったり、将来やりたいことをひたすら考えていた。
家なら、寝れなかったとしても読書したり、コンビニ行ったり、テレビやYouTube観たり、いろいろできる。
でも、何もすることができないで、ただ時間を過ごすことがこんなにも辛いことだとは経験してみて初めて分かった。
そして、留置場にいても、唯一自由なのは思考だけなのだということにも気付いた。
辛いのは、いいアイディアを思いついても、メモを取ってはいけないことだ。
家族への手紙や、反省文ならOKが出るらしいが、私用ではダメらしい。
ちなみにメモはダメだったが、他の物はいろいろもらえたりもした。
例えば俺はアレルギー性鼻炎のため、カーペットの上で生活とか地獄だった。それに花粉症でもあったため、マスクをもらえた。
それとシャンプーが合わなかったのか、皮膚が痒くなったため、オロナイン軟膏ももらえた。
まあ、こんな一日の流れ。
あ、あと、朝・昼・晩と、点呼というのがあった。
房の中であぐらをかいて座り、左右の膝の上に手のひらを上にして置く(おそらく何も持ってないことを証明するため)。
順番に、「8番!」などと呼ばれるので、「はい!」と返事をしなければならない。
・・・ふう。書くの疲れた(笑)。
他にも細かく書こうとすればたくさん書けるけど、あとは簡単に。
当初俺は、いくらスカウトをして迷惑防止条例違反だとしても、初犯だし2日くらいで家に帰れると思っていた。
実際、担当の刑事も、留置場の警察官も、相部屋の7番さんもそのような見解だった。
しかし、4月11日に立川地検に行き、検察と会ってなんやかんやサインやら確認事項やらがあった結果、10日間拘留が決まってしまった。
俺からしたら、女の子を店に紹介まではしていないことは自分で分かっているし、暴力団との関係もないし、スマホを10日間も解析したところで何も出てこないよ!ってことが分かっているだけに、少し腹が立ったが、悪いことをしたんだから何も言えない。
これが例えば学生だったり、家庭がありなるべく早く家に帰らなくてはならない人の場合、10日間拘留にならない場合があるという。
俺の場合、スカウトマン一本でやっていたのが10日間拘留になってしまった理由であるらしい。
4月20日に、11日間の留置場生活を終え、略式裁判という書類だけの裁判をして、無事に自由の身となった。
ちなみに、罰金は30万円だった。
なんとか銀行口座に残高があったため、払うことができた。
今回の一連の出来事は、痛い経験となってしまった。
もちろん反省しているし、今後はもっと慎重に、考えて行動すべきだと思った。
もう二度と、留置場には入りたくない。